「日本版気候若者会議」に参加した若者らが1月23日、気候変動対策に関する政策提言を八木哲也環境副大臣に手渡し、語り合った。
今年3回目となる日本版気候若者会議には、全国約100人の高校生から若手社会人までが参加。3カ月にわたって気候変動対策について協議し、政策提言をまとめた。
また、環境団体らとともにエネルギー基本計画の審議会など意思決定の場に複数の若者の委員を入れることや、政府主導の気候市民会議の開催を求める署名も渡した。
若者の声に、環境副大臣はどう応えたのか。
政治家は若者に「頑張って」というけれど…
八木環境副大臣は提言を受け取り、「若者の参加の仕方については、急激にはいかないかもわからないけれども、しっかり受け止めて前向きに考えていかなければと思います」と応えた。
また、自身が若い頃は東大闘争などがあって「エネルギーが蓄積された時代だった」とした上で、「個人的な見解ですが、なんで若者が怒らないんだという事案が今、世の中に多々あるように感じています」と述べた。
「2050年には私は生きていませんが、あなたたちは生きている。今環境省がやっていることが全て100点だとは私は思っていません」(八木環境副大臣)
同日開かれた会見で、大学3年生の芹ヶ野瑠奈さんは、「八木環境副大臣が『若者がもっと怒るべき』という話をしていて、『怒る若者』として共感できる部分もありました」と述べた。
「政策提言を政治家にすると、『頑張ってください』とよく言われるんです。でも、私たちは逆に政治家にもっと頑張ってほしいと思っています」(芹ヶ野さん)
芹ヶ野さんはこの4年間で、生活の中でできるエコ活動や世論喚起のためのデモ、政策提言など、政策の意思決定の場の外でできる限りのことをしてきたという。しかし、「自分の未来を守るための成果がまだ出ていない」として、意思決定の場に複数の若者を入れることを環境副大臣に求めたと語った。
大学3年生の冨永徹平さんは、「時間が短かったこともあり、八木環境副大臣と次に一緒に何ができるかというところまでは話ができなかったのが残念です」と振り返った。
「食料や化石燃料の価格が戦争などの要因もあって上がっていますが、気候変動が進むと、さらに価格が上がったり、そもそも十分手に入らなくなったりすることは目に見えています。気候変動対策は、何よりも自分を含めた社会全体のためにする、という前提が重要だと考えています」(冨永さん)
大学3年生の遠山未来さんは、「八木環境副大臣は個人のお考えとして『なぜ若者が昔と違って熱くならないんだろう』『なぜこういう経済になってしまったんだろう』と悲観的な考えを持っていたように感じました」と話す。
「今、気候マーチが大規模になってきていますし、ユースは盛り上がってきています。若者と一緒にどうやったら世代横断で社会課題を解決できるかということを継続的に話せたらいいなと思います」(遠山さん)
日本若者協議会代表理事の室橋祐貴さんは「八木環境副大臣に限らず、政治家という権力のある人がずっと話しているのを弱者が聞く構図がそもそもおかしいと思います」と指摘した。
「事前に『エネルギー基本計画の審議に若者を入れてほしい』、『気候市民会議を政府で開いてほしい』という要望についてどう思いますか、と質問を送っていましたが、直接の回答はありませんでした。声上げても 全くそれに対する応答がない、その日本の政治家の姿勢は本当に問題だなと、正直改めて感じました」(室橋さん)
政策提言の内容は?
「日本版気候若者会議」の政策提言は、専門家からのインプットや政治家との意見交換、若者同士の議論などを経て、「電力(エネルギー)」「産業・業務・家庭・運輸」「生物多様性」「市民参加」のテーマごとにまとめられた。
これまでに農水省・林野庁、自民党、立憲民主党、公明党や経団連などに提言を行い、今回環境省にも提言を手渡した形だ。
IPCC第6次評価報告書でも気候変動対策の進捗が遅れていると指摘されており、より加速度的に対策を進めていかなければならないという問題意識のもと、主に以下のような提言がまとめられた。
【電力(エネルギー)】
電力については、より持続的かつ迅速に再生可能エネルギーを最大限導入するためには「地域との共生が重要」とした上で、気候変動対策を一元的に加速させるために「気候変動省の設置」を求めた。
「現在は環境省、農水省、国交省、経産省など、各省庁の気候変動対策が進んでいるかと思いますが、やはり気候変動対策は分野横断型のテーマです。オーストラリアなど様々な国で気候変動省を設置し、一元的に対策を加速させている事例もありますので、日本も参考にできないかと思っています」(室橋さん)
他にも「ソーラーシェアリングの促進(担い手の育成、所有者不明土地の活用促進)」、「地域住⺠参加のスキーム促進(条例策定と第三者機関の設置、メディエーターの育成、マザーファンド設置)」などを求めた。
【産業・業務・家庭・運輸】
産業・業務・家庭・運輸のテーマでは、「プラントベース食品の促進」、「食品・衣料品のカーボンフットプリント表示義務化」や「エシカルファッションの推進」などを求めた。
特に議論が盛り上がったのは、「エシカル就活の支援・推進」だという。
「環境問題や社会課題に関心が高い学生でも、どうしても社会人になって活動を続けるのが難しい現実もあります。社会課題の解決によりコミットしている企業で働きやすい環境を整えるための支援や推進が必要だと考えています」(室橋さん)
【生物多様性】
生物多様性のテーマでは、メガソーラーなどを中心に、気候変動対策で生物多様性へ負の影響がある可能性があることから、同時解決を進めていく必要があるという。
そのために、「森林・林業基本計画に『生物多様性と気候変動の同時解決』の必要性を明示」、「再生エネルギー導入における環境影響評価の促進による、生物多様性の保全と気候変動対策の両立(開発前後)」「生物多様性を当たり前に!生物多様性の学びを義務教育に取り入れる」などの提言がまとめられた。
【市民参加】
市民参加のテーマでは、気候市民会議など多様な市民の声を生かす政策プロセスに変えていくことや、メディアの報道に専門家の視点を加えることなどが求められた。
気候市民会議は、無作為に選ばれた市民が気候変動対策を議論し政策に意見することで、民主主義を補う役割が期待されている。日本でも東京・武蔵野市や北海道・札幌市、神奈川・川崎市など地方自治体で開催されているケースもあるが、国主導の開催には至っていない。
今後はさらに意思決定層へのアプローチを進めるため、経産省への政策提言手交や、環境省と経産省の合同部会の開催、超党派のカーボンニュートラル議連で意思決定についての見直しをテーマにした総会などを調整しているという。